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お知らせ

【事例紹介】音楽でつくる共生社会

REPORT / 2024.09.06

今回は、プロの音楽家と一緒に音楽を通してさまざまなSDGs活動に取り組む一般社団法人琉球フィルハーモニックの活動を紹介します。

一般社団法人琉球フィルハーモニック
代表理事
上原 正弘さん

■琉球フィルハーモニックについて

 琉球フィルハーモニックは、2009年からプロのオーケストラとして演奏活動をスタートしました。2012年に法人化したことをきっかけに、沖縄が置かれている状況や抱える問題などを知り、オーケストラだけでなく、ジャズの演奏活動や子どもたちの育成を始めました。

 また、2018年から「音楽と共にまちと響きあう」という理念を掲げ、行政や地域住民と連携して、SDGsを意識した取り組みを積極的に行い、地域社会とともに持続発展する未来づくりに貢献するために活動しています。


■琉球フィルハーモニックが取り組むSDGs

 私たちは団体理念のもと、さまざまなSDGs活動に取り組んでいます。

①子どもの居場所づくり
2016年から子どもの居場所づくりの一環として、「ジュニアジャズオーケストラおきなわ」の活動をスタートしました。この事業は「どんな家庭環境の子どもにも音楽を通した多様な体験により、生きる力を育むルーティン化された居場所づくり」として、自治体や企業等と連携して活動しています。

②離島・へき地の文化芸術振興
2015年から沖縄県と連携して、舞台公演に触れる機会が少ない離島・過疎地域などでプロの音楽家によるオーケストラやジャズの公演を開催。自主的に文化芸術の事業を企画、開催するきっかけづくりや文化創造活動の促進を図り、地域の文化振興を促すことを目的として取り組んでいます。

③バリアフリーコンサートの開催
障害者がホール等で音楽を鑑賞する時、バリアフリーの面ではまだまだ課題があります。そこで、障害当事者や音楽、福祉など各分野の専門家が集い「ゆいまーるミュージックプロジェクト」チームを結成。障害者やご家族、関係者が心ゆくまでオーケストラのコンサートを楽しめる環境づくりについて話し合い、「美らサウンズコンサート」を開催しています。

④ICTを活用した取り組み
ICT技術を活用して、離島にいる子どもたちや学ぶ機会を求める人々にも質の高い音楽教育や学習環境を提供しています。遠隔双方向授業システムを開発し、国境を越えた音楽交流も実施しました。さらに、ICTを活用して3つの島(与那国島、渡嘉敷島、沖縄本島)を結んだ演奏指導とリモート合同コンサートを実施。講師の訪島が難しい離島の演奏レベルの向上と、初心者への指導の2パターンで検証しました。

その他にも子どもの育成や交流、クラシックを身近に感じてもらう取り組み、スクールコンサートの開催、地域と連携した共助・共創型地域づくりへの参加など、さまざまな活動に取り組んでいます。

写真:ICTを活用したリモートでの演奏指導と合同コンサートの様子


■音楽でつくる子どもの居場所

 2016年からスタートした「ジュニアジャズオーケストラおきなわ」は、那覇市の若狭公民館区および那覇中学校区の5つの小学校の児童を対象に、プロのジャズミュージシャン指導のもと、1週間に2回活動していて、地域行事や各種イベント、発表会などで演奏しています。
 この活動の1番の目的は、楽器が上手になることではなくて、子どもたちが、自分が演奏することで喜ぶ人たちがいることや自分が役に立っていると実感すること、何か新しいことにチャレンジする時に努力しようという気持ちを持つようになることです。

 最近は、ひとり親世帯が多かったり、ネグレクトを受けている子どもがいたり、さまざまな事情を抱えた子どもたちがたくさんいます。これまでに、ジュニアジャズオーケストラおきなわに参加している子どもたちの中には、学校に行けない子どもや家庭環境に問題がある子どもたちもいましたが、この活動に参加することで、子どもたちが笑顔になったり、楽器をやることによって、自信をつけて学校に行けるようになりましたし、中には大学や専門学校まで進学した子もいます。
 また、子どもたちと信頼関係を築くために、講師を務めるプロの音楽家の先生たちも、子どもの権利やネグレクト、家庭内DV、発達障害の子どもへの対応方法などを勉強しているので、子どもたちと円滑なコミュニケーションを取ることができ、一度も事故を起こすことなく、活動できています。

写真:練習の様子と発表会の様子


■多様性を目指したバリアフリーなコンサート

 障害者やご家族、関係者が心ゆくまでオーケストラのコンサートを楽しめる「美らサウンズコンサート」。この活動のきっかけは、障害者施設で演奏したことでした。
 演奏を聴いている障害者の方たちが激しく体を動かしたり、声を上げたりしていたので、私は演奏が気に入らなかったから拒否反応を起こしてしまったんだと思ったんです。しかし、施設の職員さんに話を聞くと、「彼らの喜びの表現が体を動かしたり、声を出したりすることなんです」ということだったので、だったら、もっと心置きなく演奏を楽しんでもらおうという思いでバリアフリーなコンサートをスタートしました。

 県外の音楽団体でもバリアフリーコンサートを開いているところはありますが、ほとんどが「障害のある人がコンサートに行くときはこういうことを守りましょう」というスタンスで活動しているんです。しかし、美らサウンズコンサートでは「障害のある人が楽しく鑑賞するためにはどうしたらいいか」を考えて活動しています。ですから、観客席の前にはマットを敷いて、小さな子どもやご家族が自由に座れるようにしたり、演奏の途中でも出入りができるようにしたりしていますし、声を出してもいいし、立ち上がって踊ってもいいというように、障害者や小さな子どもたち、そのご家族や関係者が自由に楽しく鑑賞できるように工夫しています。

 さらに、コンサートのセットリストは音楽療法士や福祉の専門家から意見を聞きながら組んでいます。通常のコンサートだと最初は派手な曲から始まってアンコールで盛り上げて盛大に終わることも多いですが、美らサウンズコンサートでは、聴いている障害者の方々がビックリしないように静かな曲から始めて、集中が途切れないように休憩中もリズム遊びで体を動かしながらリラックスするようにしています。最後は興奮したまま帰って事故やケガをしないために、静かな曲で終わるようにしています。

写真:美らサウンズコンサートの様子


■今後の展望

 今後の取り組みとしては、子どもたちの体験保障と、バリアフリーな環境をつくっていきたいということが大きいです。
 離島であってもどこであっても、子どもたちの学ぶ権利、遊ぶ権利、育つ権利などは保障されているものなので、子どもたちがやって良かったなって思える体験、経験の機会を提供し続けていくことが大切だと思います。そのためにも、ICTを活用したリモートでの活動にもチャレンジし続けていきたいですし、リモートで演奏できるようになれば、バリアフリーな環境づくりにも役立つと思うんです。例えば、コンサート会場に来ることができない方も、ICTを使って病室からリアルに近い感覚で鑑賞やアプローチできるようになれば、誰でも楽しめるオーケストラコンサート等を開催することができると思っています。

 私たちの取り組みはやってみないとわからないことも多いので、チャレンジすることが大事。チャレンジして失敗しても、その失敗を成功に変えていくために、次どうしたらいいかを考えながら取り組んで、うまく回る仕組みを作っていきたいと思います。

一般社団法人琉球フィルハーモニック

所在地:〒901-0156
沖縄県那覇市田原1-12-6
HP(https://ryukyuphil.org)