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【事例紹介】社会課題の根本的解決を目指す

REPORT / 2025.03.03

今回は、コンサルティングを通してさまざまなSDGs活動に取り組むケイスリー株式会社の活動を紹介します。

ケイスリー株式会社
代表取締役
幸地 正樹さん

■ケイスリー株式会社ついて

 私たちは主に社会課題の解決を軸にしたコンサルティングを行っています。

 私は沖縄出身ですが、大学進学を機に東京へ行き、そのまま東京で就職しました。将来は沖縄に戻って地元に貢献したいという思いがあったので、東京での就職も沖縄に役立つようにと、wCコンサルティング合同会社という企業に就職し、中央省庁や自治体等行政が民間企業やNPO団体などと連携して取り組むプロジェクトなどを担当していました。しかし、行政課題や社会課題解決のためのプロジェクトのはずが、仕様書に決められた内容をどうこなすかという状態が多く、行政と民間が構造的に同じ目線で対話できないという違和感を感じていました。この状況を変えたいと思っていたところ、イギリスで「成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)」という官民連携の仕組みが始まっていることを知り、これを日本に導入して、みんなで社会課題に向き合えるようにしたいと思い、2016年にケイスリー株式会社を立ち上げました。2017年に成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)を日本で初めて導入し、今では閣議決定する骨太の方針に記載される等制政府の政策として国内にも広がっています。

 はじめは、東京で仕事していたのですが、コロナ禍でのリモートワークの普及に伴い、沖縄に戻ってリモートワークで全国のプロジェクトを推進するようになりました。そして、コロナが落ち着いてきた2023年には、沖縄の社会課題解決を目指した地域特化のシンクタンクやコンサルティングを行う「沖縄かふう共創部」を設立しました。


■社会課題解決への貢献度や影響度を評価する

 私が日本に導入したいと考えた「成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)」とは、行政と民間が連携して社会課題の解決を目指す仕組みの一つです。一番の特長は、「社会課題解決への影響度=成果」を評価し、その評価結果によってお金を支払うということです。成果の目標を設定することで、予算を効果的に活用でき、成果向上も期待できます。

 例えば、「がん検診に行ってもらい、がんによる死亡者数を減らす」という事業があるとします検診に行ってもらうために、対象者にハガキを1,000枚送ることが仕様書で決められていた場合、従来は、ハガキを1,000枚送ったら事業完了となり全額支払われます。成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)の考えだと、ハガキは何枚送ってもよ良いし、ハガキを送らずに他の方法を行なっても良いけれど、実際に検診の受診者数やがんを早期発見できた人数を評価し、その結果に基づいて支払い額が変わります。事業の目的はハガキを送ることではなく、検診に行ってもらい、がんによる死亡者数を減らすことなので、仕様で詳細に決められた業務ではなく、目的達成に向けて官民が同じ目線で協働し、創意工夫することが求められるのです。

 ケイスリーでは、成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)を国内に広めていきながら、その重要な要素の一つである「社会課題解決への影響度を可視化」する手法「社会的インパクト・マネジメント」やそれを投資に活用し経済性と社会性の両立を目指す「インパクト投資」という手法も国内に広めています。
 現在、多くの企業では、パーパスや社会課題の解決、地域貢献などを掲げ、様々な取組を行なっていますが、その取組が本当に社会課題解決につながっているのか、方向性が間違っていないかをマネジメントすることができないケースが多々あります。そこで、私たちは企業の取組がどれだけ社会課題の解決に貢献できているのかを定量的に評価し、見える化することで、社会課題解決への取組も経営の中に入れていくようなコンサルティング支援も行なっています。

左図:ソーシャルインパクトボンドの仕組み
右図:社会的インパクト・マネジメントの実践ステップ


■沖縄の課題を根本から解決する「沖縄みらい地図アクション」

 成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)や社会的インパクト・マネジメントは、社会貢献や社会課題解決への取組に熱心な先進的な企業や団体、新しいことが好きで常にアンテナを張っている方々からの問い合わせが多く、全国各地で様々な事業を行っているのですが、どうしても点と点の取組になってしまいます。点の取組も良いのですが、もっと地域全体が変わっていくようなことをしたいと思い、2023年に沖縄に特化した「沖縄かふう共創部」という部署をつくり、地域特化のシンクタンクやコンサルティングを始めました。

 沖縄は島国で一体感もあり、仲間をつくりながら中長期で地域に根ざした取組を根気強く行なっていこうと思います。
 沖縄には、さまざまな社会課題がありますが、今年度は「こどもの貧困」と「起業支援」をテーマに「沖縄みらい地図アクション」をいう取組を進めています。
 今年度は、県や市町村、NPOや企業、大学等71団体104人の多様な関係者へのインタビューや4回のワークショップ等を行い、その人が一番重要だと思う課題やどうして解決できていないのかなどを聞き、みんなの意見を繋ぎ合わせることで、社会課題の全体像を俯瞰して見えるようにした地図をつくりました。

 今後は、この中で根本的な課題解決につながる部分はどこかをみんなで考えて共通の目標を設定し、本当の意味で協働しながら課題解決を目指していきます。 
 目の前の課題に対処するだけでは、毎回同じような課題が出てきます。行政や民間はそれぞれ課題を抱えていて、お互いがもっとやってほしいのにやってくれないと思っている話をよく聞きますが、そうではなくて、なんでこうなっているのかという背景や要因を共有し、課題全体を俯瞰して見ることで、腹を割って、「ここが大事だからどうやって解決しようか」ということをみんなで話し合うことが大事だと思います。

 これは、日本でも前例がない取組です。地域全体が1つになって、みんなで課題の根本的な解決につながることを考える機会はなかなかないですし、領域が広すぎて、考えられていない潜在的な課題も多いので、まずは全体を俯瞰して見ることができるように土台を整理しています。

左図:意見を繋ぎ合わせ、全体のつながりを俯瞰して見えるようにした図
右図:ワークショップの様子


■みんなの媒介役としてつなげ、支える

 行政とNPO団体、企業と金融機関など様々な方々と関わりますが、それぞれの立場も異なれば、強みや特徴も全然違う。実は言語も全く違います。同じ話をしていても使う言葉も、言葉の解釈も変わってくるので、私たちがうまく媒介役になり、みんなをつなぎながら同じ方向を向いて取り組めるように支援しています。


 2016年にケイスリーを創業した時は、インパクト投資や成果連動型民間委託契約(PFS/SIB)はあまり受け入れられてなかったのですが、今では大手コンサル企業も取り組み始め、市場ができたり、多くの企業でもSDGsや社会課題の解決、パーパス実現に取り組んだり、社会全体が変わってきたと感じます。取り組む人が増えたからこそ、本当に質も伴っているのか、やっているだけになっていないかというところもしっかり見ていく必要があると思います。


 私たちはコンサル業なので、受託する形で事業を行うことが多いのですが、案件選定の判断軸は「社会にとって有益か」ということを最も重視しています。自社の利益だけを考えているところとは取引しないとか、一緒に仕事する人の意識が社会に向いているのか、ということを大事にしています。逆に、利益が見込めないプロジェクトでも、社会にとって意義があると思えるものにはチャレンジするようにしています。


■今後の展望

 1つは、沖縄みらい地図アクションの継続です。この取組はまだ始まったばかりで、今年は私たちがインタビューをしてその内容を地図に落とし込んでいましたが、本当は地図からみんなで作って、みんなで考えて、みんなで目標を立てて、協働しながら分担して課題解決を目指すような取組をしていきたいと思っています。また、地図を各団体が自由に活用・ブラッシュアップできるオープンソースのような仕組みにもできたらと考えています。3年後くらいにはこのような取組が民間だけではなく、行政も含めて効果的な協働が自然にうまれるようになっていたらいいなと思います

 もう1つは、働き方をもっと自由にしたいと思っています。一人ひとりが自分らしく働ける、自分らしくいられるような社会をつくっていきたいので、まずは自社から変えていきたいと思います。今もリモートワークやフレックス制度を導入して、フレキシブルではありますが、働くことは人生の中でも大きな時間を占めているので、自分が情熱を持って取り組めるような仕事に注力して欲しいと思っているし、働くことに対する組織や地域の障壁を下げた新たな仕組みを考えています。

写真:社内の様子

  Ladybird

ケイスリー株式会社
所在地:〒904-0324
沖縄県中頭郡読谷村字長浜187
HP:https://www.k-three.org